民法の一部・相続法の改正に伴い新設された「配偶者居住権」について
平成30年7月から38年振りに民法の相続法制が従来型から改正されています。大きな改定部分の1つとして、配偶者相続人の優遇措置に相当する配偶者居住権の設置が挙げられます。これはいったいどのような権利なのでしょうか。見ていきたいと思います。
相続法の改正
相続発生時のトラブルを回避すべく、民法の枠内で、遺産の引き継ぎ方やその配分など基本的なルールが定められています。それが相続法です。相続法は昭和55年の改定以降、40年近くに渡って大きな見直しがなく施行されてきましたが、高齢者の増加などと言った社会変化に対応すべく、平成30年7月に改定されることとなったわけです。
改定の大きな部分の1つとして、残された配偶者がこれまで通りの生活を継続していけるよう配慮されている点すなわち配偶者相続人の優遇が挙げられます。
配偶者相続人の優遇措置と配偶者居住権
相続法の改正に伴って配偶者相続人がどのような形で優遇されるようになったのか、確認していきたいと思います。
従来の相続では、資産価値のある遺産について、土地・建物・預貯金などと言った区別は特に考慮されず一律と見なされ、相続人に配分されてきました。これを、被相続人が父、相続人が母と子1人で、遺産が評価額2000万の自宅と3000万の預貯金であるケースを例に考えてみます。
従来の相続では、遺産は自宅と預貯金の合計5000万を法定相続の定めに則って母と子が1:1の割合で分け合うこととなり、それぞれ2500万円ずつ受け取る形を取っていました。その場合、母が自宅での居住継続を希望したとなれば、それぞれの取り分が母側は自宅と預貯金500万円、子側は預貯金2500万円となります。つまり母側は現金として受け取る遺産が少なく、これまで通りの生活継続に不安が生ずることになるわけです。
相続改正ではそう言ったケースに配慮して、配偶者相続人の住居についても分配して相続するよう定められることとなりました。つまり、配偶者相続人には終身あるいは一定期間これまで通り自宅居住できる配偶者居住権が認められ、それ以外の相続人は自宅の権利を持ちつつ配偶者相続人の居住を許可する負担付き所有権を持つ仕組みへと変更されたわけです。
これを先の例に当てはめると、母側は自宅と500万、子側は2500万とされていたのを見直し、母側と子側双方共に自宅1000万円分と1500万円を相続することとなりました。従来では現金の取り分が少なかった母側に優遇される形となったわけです。
相続法改正に伴う自宅相続の注意点
配偶者居住権による相続で注意すべきは、配偶者相続人が自宅を自分の意思のみで自由に運用することができなくなった点です。従来の相続では、自宅の所有権を配偶者相続人1人が有する形となっていたため、引き継ぎ後の自宅を売却や賃貸経営などの不動産投資に使うことができました。
しかし配偶者居住権に基づく自宅相続では、他の相続人も負担付き所有権という形で権利を有しているため、配偶者相続人の独断による運用は不可能となるわけです。配偶者居住権は、あくまで配偶者相続人自身が遺産である自宅に住むための権利であると捉えるべきと言えるでしょう。
まとめ
以上のように、相続法改正に伴う配偶者居住権の新設により、配偶者相続人は居宅以外の遺産についても法定相続に則った割合で配分が受けられるようになったこと、居宅の所有権は相続人各々が有するため配偶者相続人が独断で運用することはできないこと、などについて確認してまいりました。相続法改正に伴い、遺産となる不動産の引き継ぎ方も従来とは異なるものとなっています。どの点が変わったのか正確に把握するためにも、相続に詳しい専門家などからアドバイスを受けておくことをお勧めします。