空室だけではない賃貸経営リスクである経年劣化~クロスは6年・洗面台は15年~
はじめに
賃貸経営のリスクといえば、まず思い浮かぶのは空室の発生ですが、リスクはそれだけではありません。
家賃の低下、修繕費の出費、入居者との間で起こる原状回復に関するトラブルなど、いくつかのリスクに関連してくる問題として、設備の経年劣化があります。
特に、原状回復に関しては、敷金の返却をめぐるトラブルに発展しやすいので、オーナーさんもしっかりと理解を深めておく必要があります。
今回は、この経年劣化について見ていくことにしましょう。
原状回復と経年劣化
賃貸物件の借主(入居者)は、故意や不注意によって設備を破損させたり、汚したりしたときにはその修繕費用を負担しなくてはなりません。
これが原状回復の義務です。
しかし、人が住んでいると(ものによっては人が住んでいなくても)、ふつうに暮らしていたとしてもある程度の傷や汚れ、劣化は生じるものです。
このようなものを経年劣化と呼び、それに伴う修繕費用は貸主(オーナー)側が負担します。
したがって、借主が負担する原状回復に要する費用は、この経年劣化に伴う費用を差し引いて計算することになります。
経年劣化に伴う費用の目安となるのが耐用年数です。
主な設備の耐用年数を見てみると、流し台が5年、クロス・カーペット・エアコンなどは6年、洗面台やトイレの便器などは15年となっています。
例えば、7年間にわたって部屋を借りていた人が退去してクロスを貼りかえるとなった場合は、すでにクロスの耐用年数(6年)は過ぎていますので、クロスの価値はほぼなしとなり、貼りかえ費用は貸主側が負担することとなります。
ただし、耐用年数が過ぎていたとしても、常に貸主側が修繕費用の全額を負担するとは限りません。
もし、耐用年数を過ぎたとしても引き続き使用することが可能な設備を借主側の故意や不注意によって破損させた場合は、修繕費用の一部が借主側の負担となることがあります。
修繕費用と敷金
原状回復にかかる修繕費用は、入居時に預かっている敷金から差し引くというのが一般的です。
そのため、基本的には残った分の敷金は借主に返還することになりますし、経年劣化のみのケースでは、敷金の全額を返還しなければなりません。
国土交通省のガイドラインにもそのように記載されています。
しかし、ガイドラインは法律ではありませんので、契約書に特約の記載があれば、その内容が優先されることになります。
退去時の設備、部屋の清掃費用や、鍵の交換費用などは、特約によって借主の負担としておけば、退去時に敷金から差し引いたり、不足があるケースや敷金ゼロのケースでは別途請求したりすることができます。
ただし、退去費用はすべて借主の負担とするなど、一方的な内容である場合には裁判で無効とされる可能性もありますので注意してください。